カウンセラーの役割

「悩み」と「表現」

はじめに
 「悩み」は、秘められた負のエネルギーである。なんらかの形での表現を求めている。「悩み」の解決は、このエネルギーを正のエネルギーに転化する ことを意味する。「悩み」は魂を成長させるエネルギー源であり、その「表現」の「場」を提供することがカウンセラーの役割である。

1 感情の表現
 悩みを抱えて、どこにも自分の感情を表現する場所がなく、心のうちに溜まっていたものを吐き出す場所がないと、悩みの種がガンのように成 長して、取り返しがつかない事態に悪化してしまう。悩みに飲み込まれる前に、それを吐き出す(表現する)事が大切である。溜まった水が腐るよ うに溜まった負の感情は、腐ってくる。それは心身を蝕む事になる。  カウンセリングが必要となるのは、クライアントが自分で負の感情(憎しみ)を溜め込み、自家中毒状態になり、自分では対処出来ない時である。 憎しみの感情は、最初はある特定の相手に向けられていたものが、不特定の相手になり、さらに自分自身にも向けられてしまい、もうその憎しみの 感情の沼から抜け出せなくなってしまう。大きく舵を切り方向転換する必要があるが、自分でそれが出来ない時、カウンセラーが必要とされる。  カウンセラーはクライアントの感情の表現が出来る、安全な場所を提供する。箱庭であったり、絵であったり、音楽であったり、踊り、体の動きで あったり、クライアントに一番適した表現方法を選ぶ事が大切である。クライアントの感情を表現できる「場」を提供する事がカウンセラーが第一 にする事である。表現されたものに対して解釈せずにそのまま受け入れる。クライアントにとって100%自分自身が受け入れられる「場」が必要で ある。カウンセラーに受け入れられたという経験を通して、クライアントは、自分自身を受け入れる事が出来るきっかけになる。このきっかけが、大 切である。カウンセラーとの関係の中で自分が受容される経験が、悩みを解決する道程の出発点になる。  

2 愛と憎しみ
 悩みを解決するというよりも、悩みと共存する方向をめざす方が賢明である。悩みが癌のようにコントロールのもとに置けなくなり増殖し自 己自身を滅ぼすのを食い止めることが、中心課題である。悩み自身が増殖し心身両面に打撃を与えるのを避けることを目指す。コントロール下に 置くことが、課題である。悩みをなくすことが目的なのではなく、悩みに飲み込まれ、自分の位置を認識出来ない地点から脱出する、そして悩み とうまく付き合うことを目指す。  悩みは千差万別だけれども、その中心は「愛したいけれど愛せない」自分を、もてあましているという状態だと思われる。困難な状況に陥っている のは、「あいつのせいだ。」「あいつがあんな事をしたからだ。」と、恨み、憎しみを抱え込んでしまっている。そこから脱け出せない。 その憎しみを身体症状として表す(心身症)か、神経症、精神病という形になるか、自殺、無差別殺人へとエスカレートする場合も出て来る。その中 心には「憎しみ」がある。「愛したいし愛されたい」という思いが、満たされず、踏みにじられ続けて来たという思いがある。この憎しみの沼から脱け 出せない苦しみである。  カウンセラーの役割は、この憎しみの沼からクライアントが、自力で脱け出すのを助けることである。脱け出すためにはクライアントが自分の憎し みの沼を対象化することが第一である。安心できる、安全な環境のなかでクライアントが絵を描いたり、箱庭をしたり、言葉で書いたり、叫んだり 様々な方法で表現する。これが最も大切なことである。  

3 信頼関係
 クライイアントは、自分の中に溜まっていた感情を外に出すことによって、すっきりした爽快感を味わう。鬱積した気分がすこし晴れる糸口に なる。そして表現したものを客観的に見ることが出来る。これは、一歩憎しみの沼から脱け出したことを意味する。カウンセラーは表現されたもの によって、クライアントの精神・心理状態を把握出来る。クライアントは、普段の生活では表現出来ない事を、カウンセラーの設ける、安全で安心で きる場の中で、表現出来た喜びを味わう。カウンセラーは、クライアントとの共有する時間の中では、「無条件の愛」を実践する。これによってクライ アントにとって、安全で安心出来る場となる。これは、カウンセラーとクライアントの十分な信頼関係の上において成り立つ。この信頼関係なしには、 カウンセリングは成り立たない。カウンセラーはクライアントに全面的に信頼されることが必要であり、これがカウンセラーにとって第一の関門であ る。これをクリアできるかが、カウンセリングの先行きを決定する。カウンセラーの度量が試される。カンセリングは知識も技術も必要だけれども、 クライアントと信頼関係をどのように築けるか、人間的な度量の問題が、大きな比重を占める。この信頼関係の土台の上に、知識も技術も意味を もつ。   

4 受容
 カウンセリングにおいてカウンセラーは、クライアントを受容することが出発点であり、終着点かもしれない。受容するといっても表面的なものは、、 逆効果であり、信頼関係を傷つけることになる。全面的な「無条件の愛」を心がけることが必要であるが、人間である以上不可能に近い。カウンセ ラーも悩みを抱えた人間である。悩みを抱えた人間同士であるという認識のもとに、カウンセラーは専門的に学び、訓練してきた者であり、クラ イアントに指針を与える事ができる立場にある。カウンセラーは、クライアントとその悩みを共有し、クライアントが成長できるように手助けをする。「悩み」は成長するためのステップである。自分ひとりでは担いきれない時、カウンセリングが必要となる。カウンセリングの目標は、悩みを抱えな がらも社会生活、家庭生活が行えることであり、社会復帰が一つの目安となる。

5 被害者意識から感謝へ
 一人では担いきれない悩みを解決するには、「あいつがいるからダメなのだ」という、人のせいにする姿勢を転換し、「あの人、あの事のおかげでこう していられる」という感謝の姿勢を持つことである。これは道徳的な問題だけではなく、この姿勢の転換によって、事態は好転し始める。責任転嫁か ら感謝へと舵を切り換えることが、できるかどうかが鍵となる。  人間関係の基礎である母子関係において、母親のせいでこうなったのだという非難、憎しみ、恨みから、母親への感謝へと方向転換できるかどうか が鍵となる。これは、「内観療法」の考え方であるが、的を射た視点である。一週間、ついたての中にこもって、内面を直視し、今までの自分の履歴を 振り返り、自力で到達することを目指す。母親への感謝の念が湧き起こって来れば、解決の糸口を掴んだことになる。「内観療法」に限らず、いろい ろな療法においても、母親への感謝が鍵となる。これは、自分の根底にある問題だからである。母親への憎しみから、あらゆるものへの憎しみへと増幅 し、自分自身への憎しみに拡大し、憎しみの沼から脱け出せなくなる。母子関係の歪みという根本原因を解消することが、「悩み」解決の要点である。

6 霊的覚醒
 そしてもう一つ大切な視点は、「霊的覚醒」である。自分の心身を超えた、霊的自己(Higher Self)の自覚である。これは夢を見ている時、瞑想して いる時、宇宙との合一を感じる時の自己である。神と繋がっている自己である。「悩み」は、なぜ人を苦しめるのか、これは、「霊的覚醒」を促すため である。もし悩みがなければ幸せであるが、人間は死ぬまで、その状態は続かない.。何故生きているのか、死んだらどうなるのか、という疑問を抱 きながら生きてゆく。生きている意味を見出せない時考え始める。「悩み」というのは、生きている意味を問い質され、答えられない時に起こる。  「悩み」があるからこそ、神とのつながりを求め、神とのつなががりを感じることが出来た時、至福感を味わうことが出来る。神の愛を感じた時、 今までこだわっていたことは解消され、憎しみから感謝へと転化する。自己の殻は破られ、神との合一を感じる幸福を味わうことになる。これが霊 的覚醒である。無意識層に溜まっていた恨み、つらみの感情に光が与えられ、感謝する喜びに変えられる。  「悩み」はこの喜びを味わうためだったのだとわかる。「ありのままでよいのだ。」「神はそんな自分をも愛してくれている。」「だれからも愛されないと 思っていたけれど神は愛してくれている。」この思いは、母親に対する感謝の念に繋がっていく。  母親に対する関係が、変わることによって、他の人間関係も変わってくる。「悩み」は、この真実に気付くためだったのだと分かる。「悩み」はここで 負から正に転化する。幼児時代の世界(母親)との一体感から、思春期の「悩み」の時期を通過し、大人になり社会との齟齬感を感じながら、再び 霊的覚醒によって、世界との一体感を味わうことが出来る。「悩み」は、失われた「世界との一体感」を得たいという欲求だったのだと分かる。  カウンセラーは、「悩み」の意味を理解することが必要である。そして「霊的覚醒」について体験することが大切である。これは、日々の瞑想によって、 芸術表現によって、自然の美しさに浸ることによって、神への祈りによって霊的自己を感じることは持続する。カウンセラーにとっても、クライアント にとっても、これは共通した課題である。カウンセラーは、クライアントより先に気付き体験し、知識を持っている同伴者である。  

7 表現と霊的覚醒
 何故、表現によって霊的覚醒に導かれるのか。最初、心の中の中に抱え込まれた、負の感情を表現することによってカタルシスが得られる。吐き出 すことによる爽快感、そして表現されたものによって、自分の姿を客観的に見ることが出来る。自分に対して距離を置いて見ることが出来る。そし て次の段階が、よりよいものを作りたいという欲求である。単に表現出来た喜びだけではない。創造する段階に至る、自分の望む世界を造り出す 喜びである。これは、いわば神の創造行為の擬似体験である。この時、日常的意識を超えて、自我によってコントロールされていた無意識的自己が噴 出し、変性意識に昇華される。これは、心身を超えたもう一つの自己である。つまり神と繋がる自己(霊的自己)を体験する。  創造行為は、神と繋がることなのだとわかる。これが、霊的覚醒である。霊的覚醒によって、いままで捕われていた負の感情を、俯瞰する位置を確 保出来る。  「悩み」は「表現」を通して霊的自己に目覚めるためのものだったことに気付く。「悩み」を肯定的に捕らえ、神からの贈り物だと気付けばこの世界 は天国に変わる。 常に神の愛に守られていることに感謝出来るようになれば、何も恐れるものも不安になることもなくなる。

結び
 被害者意識から脱け出すことが「悩み」解決の道である。それは、母親の愛に感謝するところから始まる。母親の愛に気付くには、自分を表現す る手段、方法を手に入れることである。カウンセラーは、安全で安心できる場をクライアントに提供することが役割である。その場で、クライアント は、自分を表現出来た時、自分を解放し、対象化し俯瞰することが出来る。自分の真の姿に気付く。そこから母親の愛に気付き、感謝の念が湧き 起こる。「悩み」は本来の自分に立ち返るためのものだったことに気付く。それには、安全な、安心出来る「場」の中での「表現」が欠かせない。この「場」 を提供することが、カウンセラーの役割である。